暮らしの中の人権-アイヌの人々-

ポイント

  • 民族や文化の違いによる差別は、許されますか。
  • 人権は、民族ごとに違いがあるのでしょうか。

考えを深めるために

アイヌの人々は、固有の言語であるアイヌ語や伝統的な生活習慣など独自の豊かな伝統や文化を持った民族です。しかしながら、「北海道開拓」を進めるなかでのいわゆる同化政策などにより、アイヌの人々の民族としての誇りの源泉である多くの文化が失われてきました。いまでは、昔ながらの集落に住み伝統的な生活を続けている人はいませんが、今日でも依然としてアイヌの人々に対する差別や偏見が存在しています。このような差別や偏見は、アイヌ民族が「和人」によりあるいは国によりその存在を圧迫されてきた歴史的事実を背景としていることは、否定できません。

こうした状況のなか、1997年(平成9年)7月「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与すること」を目的に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が施行されました。

民族や文化の遠いにかかわらず、憲法のもとで人権は平等に保障されています。アイヌの人々の人権について認識を深め、民族や文化等の違いによる差別のない社会を築くとともに、お互いの文化や価値観を相互に認め合い、文化の多様性を発展させていくことが求められています。

二風谷ダム事件 札幌地裁平成9.3.27判決(抜粋)

  • 支配的多数民族と、これに属しない少数民族との関係においてみると、えてして多数民族は、多数であるが故に少数民族の利益を無視ないし忘れがちであり、殊にこの利益が多数民族の一般的な価値観から推し量ることが難しい少数民族独自の文化にかかわるときはその傾向は強くなりがちである。少数民族にとって民族固有の文化は、多数民族に同化せず、その民族性を維持する本質的なものであるから、その民族に属する個人にとって、民族固有の文化を享有する権利は、自己の人格的生存に必要な権利ともいい得る重要なものであって、これを保障することは、個人を実質的に尊重することに当たるとともに、多数者が社会的弱者についてその立場を理解し尊重しようとする民主主義の理にかなうものと考えられる。
  • 島国である我が国においては、多くの民族の文化に接する機会は比較的限られたものにならざるを得ないとみられることから、ともすれば単一的な価値観に陥りがちであるところ、日本国内において先住少数民族の先住地域に密着した文化に接する機会を得ることは、民族の多様性に対する理解や多様な価値観の醸成に大いに貢献すると考えられる。
用語解説

二風谷ダム事件
アイヌ民族の原告が、ダム建設の事業認定とこれに基づく土地収用裁決の違法性を争った事件です。判決は、アイヌ民族の文化享有権という本来もっとも重視すべき価値を国が不当に軽視、無視したとして、事業認定に当って裁量権を逸脱した違法があると判断しました。

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